
このコラムの要点(目次)
仮想通貨(暗号資産)の取引で得た利益には税金がかかります。
適切に申告しない場合、過大な追徴課税や資産の差し押さえ、最悪の場合は逮捕されるリスクがあります。
「少しくらいならバレない」という考えは通用しません。
国税庁は近年、重点的に調査を行う事務年度の方針においても、暗号資産に関する調査を重点課題として掲げています。
それにともない、取引所やマイナンバーを通じて広範囲の情報を把握し、暗号資産取引を行う個人や企業を厳しく監視する体制を整えています。
実際に、税務調査で申告漏れを指摘され、多額の追徴課税が課されるケースも珍しくありません。
本記事では、仮想通貨の税金の基本的な仕組みや、申告を怠った場合にどのようなペナルティが科されるのか、また「なぜ脱税がバレるのか」その仕組みを詳しく解説します。
適切な方法で申告し、安心して仮想通貨を運用できるように基礎知識をしっかりと押さえていきましょう。
仮想通貨の利益は「雑所得」として課税対象です。
給与所得など他の所得と合算して税額を計算する「総合課税」が適用されるため、利益が大きいほど税率が上がる累進課税となり、住民税(一律10%)と合わせると最大で約55%の税率になります。
仮想通貨は決済手段や投資対象として経済的な価値を持つため、その利益は所得税法上の「所得」と認定されます(所得税法第36条)。
株式投資やFX(国内)の利益が「申告分離課税(一律20.315%)」であるのに対し、仮想通貨の雑所得は以下の特徴があり、税負担が重くなりやすい傾向にあります。
扱い方を誤ると控除や税率を間違えやすいのが特徴です。
正確な分類や計算のためにも、取引ごとの損益をしっかりと把握し、必要に応じて税理士などの専門家に相談することが大切です。
仮想通貨で利益が確定するのは、単に売却して日本円に換金するときだけではありません。
以下のようなタイミングでも、税法上は「利益確定(利確)」とみなされ、取得価額との差額が課税対象となります。
特に注意が必要なのが「交換」です。手元に現金が増えていなくても、計算上の利益(所得)が発生しているため、「納税資金がない」という問題に直面するリスクがあります。
所得が生じるポイントを正しく把握することが重要です。
会社員など給与所得がある人でも、仮想通貨取引を含む雑所得の合計が年間20万円を超えると確定申告を行う義務があります。
また、学生や主婦などの扶養親族であっても、雑所得が一定金額を超えると、確定申告が必要になるほか、扶養から外れる可能性があります。
仮想通貨の利益を含む年間の「雑所得」が58万円(基礎控除額)を超える場合
アルバイト代以外の所得(仮想通貨の利益など)の合計が、年間20万円を超える場合。
もし申告を怠ると、本来納めるべき税金に加え、延滞税や無申告加算税などのペナルティが科される可能性が十分にあります。
実際に、過去には正しい申告を行わずに大きな追徴税を課された事例も多数報告されており、申告漏れや計算ミスには細心の注意が必要です。
「仮想通貨は匿名性が高いからバレない」というイメージは、もはや過去のものです。
実際には国税庁が情報収集体制を大幅に拡充し、IT専門の調査官を配置するなど、さまざまな方法で取引履歴を把握できる仕組みが整いつつあります。
以前は国内外の仮想通貨取引を追跡することは難しいと考えられていましたが、取引所の情報提供やブロックチェーンの分析精度の向上などにより、未申告の利益が当局の調査で発覚するケースが急増しています。
特に1億円を超えるような大きな利益を得ている人(いわゆる「億り人」)だけでなく、数百万〜数千万円規模の利益でも調査対象となる事例が見られます。
海外取引所を利用したり、複数のウォレット間で資金を細かく移動したりする手法(仮装・隠蔽工作)もありますが、国際的な租税条約やデータ共有協定によって、取引内容や送金履歴の情報が当局に届く可能性が高いのが現状です。
正しく申告しない限り、いずれは税務調査の対象となるリスクがあると考えたほうがよいでしょう。
国内の仮想通貨交換業者は、利用者の氏名や住所、マイナンバー、取引内容を厳格に管理しています。
税務署には強力な「質問検査権」があり、必要に応じて取引所に対して顧客の取引データの提出を求めることができます。
また、暗号資産交換業者は、特定の条件下(支払調書の提出義務に該当する場合など)で税務署に報告を行います。
マイナンバーと金融機関口座、取引所データが紐付けられれば、資金の動きは容易に特定可能です。
そのため、仮に無申告やごまかしを試みても、取引所の記録と銀行の入出金記録を照合されれば、矛盾点はすぐに発覚します。
ブロックチェーン上の取引履歴(トランザクション)は全てインターネット上で公表されており、誰でも閲覧可能です。
ここから特定のウォレットアドレスと個人情報(国内取引所のアカウントやSNS情報など)が紐付けられれば、過去の資金移動が全て芋づる式に判明します。
さらに、国税当局はAI(人工知能)を活用したパターン認識技術や、民間のブロックチェーン分析ツールを導入しています。
これにより、大量のトランザクションを高速かつ自動的に分析し、申告データと乖離のある「疑わしい取引」や「脱税の兆候」を効率的に抽出することが可能になりました。
結果として、脱税や不正行為が以前より早期、かつ高精度に見つかるようになっています。
大前提として、日本に住んでいる人(居住者)であれば、世界中どこで稼ごうと日本の税制が適用されます。
取引所が海外にあっても、取引による所得が発生すれば日本で確定申告が必要であり、申告を怠れば国内と同様に追徴税や加算税の対象となります。
「海外取引所なら日本の国税局の手が及ばない」というのは大きな誤解です。
日本は多くの国と租税条約を結び、特にCRS(共通報告基準)という枠組みに参加しています。
これにより、加盟国の税務当局間で金融口座情報が自動的に交換される仕組みが稼働しており、近年では海外の暗号資産交換業者もこの対象となるケースが増えています。
たとえ海外で得た利益が口座に残ったままであっても、こうした情報交換によって取引履歴や資産状況が把握されるため、脱税が発覚するリスクは極めて高いと言えます。
さらに、OECDは2023年に暗号資産専用の情報交換枠組みである「CARF(Crypto-Asset Reporting Framework)」を公表しており、各国がこの新たな国際基準の導入に向けて動き出しています。
OECDは2023年に、暗号資産専用の情報交換の国際的な枠組みとしてCARF(暗号資産報告枠組み)を公表し、各国にその導入を推奨しています。
これはCRSの暗号資産版とも言えるもので、各国がこの枠組み導入に向けて動いています。
また、税務申告の実務においても注意が必要です。
海外取引所特有の手数料や送金ルール、時差によるレート換算などを正確に把握し、計算ミスや無申告を招かないよう、常に新たな規制情報に注目しておく必要があります。
仮想通貨による所得を無申告のまま放置すると、本来納めるべき税金に加え、多額の延滞税や加算税などの経済的負担が発生します。
さらに、悪質な隠蔽工作があったと判断されれば、刑事罰(懲役や罰金)に繋がる可能性もあります。
税務調査には「時効(除斥期間)」が存在しますが、原則5年、悪質な場合は7年まで遡って調査が行われます。
つまり、過去数年分の利益に対して、ある日突然、巨額の請求が来る可能性があります。
申告漏れや無申告が発覚した場合、以下の附帯税が課されます。
これらの税金・加算税は組み合わせて課されるため、予定よりも大幅に納付額が膨らむことも珍しくありません。
意図的に所得を隠していた(データの改ざん、二重帳簿、仮装など)と認められる場合には、最も重い重加算税(35%〜40%)が適用されます。
さらに、極めて悪質な脱税(ほ脱)と判断されれば、査察調査を経て検察庁に告発され、刑事裁判となります。
所得税法違反等の罪で「10年以下の懲役」もしくは「1,000万円以下の罰金」、またはその両方が科されることがあります。
例えば、暗号資産に関する大規模な脱税事件で有罪判決が出た事例があります。
特に金沢地裁での判決など、数億円規模の利益を隠したケースでは、実刑判決や巨額の罰金が言い渡されており、社会的な制裁も受けることになります。
参考判例:金沢地裁の判決(2021年3月31日)の概要
仮想通貨取引による収益を長期間申告していなかったり、過少に申告していたりする場合、突然大きな追徴課税を求められる可能性があります。
先ほどの判例のように、億単位での追徴課税等の支払いが求められるケースもあります。
一括で支払えない場合でも税金の支払い義務は消えません。
支払いを滞納すると、銀行口座、給与、不動産などの資産が差し押さえられるリスクがあります。
結果として、生活基盤や財産の維持が難しくなり、社会的信用も失うなど、人生に深刻なダメージを受けるおそれがあります。
仮想通貨による利益を確実に申告するためには、正確な損益計算と期限内の申告が欠かせません。
必要書類の準備や手続き方法を理解しておきましょう。
まずは年間(1月1日〜12月31日)を通して取引履歴を整理し、いつ、どの取引所で、どれだけの利益や損失が発生したのかを明確にすることが重要です。
特に複数の取引所を利用している場合や、海外取引所とのやりとりがある場合は取引データの管理が煩雑になるため、損益計算ツールなどを活用すると便利です。
税金の申告は通常、翌年の2月16日から3月15日までが期限と定められています。
期限を過ぎてしまうと加算税や延滞税が発生するため、早めの準備が必要です。
仮想通貨のように雑所得が複雑になる場合は、税理士への相談も検討するとよいでしょう。
仮想通貨の取引履歴は、売買や交換、ウォレット間の移動など多岐にわたります。
以下のポイントに注意して、申告手続きを進めましょう。
複数の取引所を利用したり、頻繁に取引を行ったりする場合、手計算は現実的ではありません。GtaxやCryptactといった計算サポートツール(一部無料プランあり)を使用するのが一般的です。
これらのツールは、ステーキング報酬やDeFiのトランザクション、暗号資産同士の交換などもまとめて計算できるものが多く、手作業でのミスを減らし正確な申告に近づけられます。
確定申告書の作成には、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」が便利です。
e-Tax(電子申告)を利用すれば、自宅からスマホやPCで提出が完了します。
取引が膨大な場合や計算に自信がない場合は、計算過程のメモを残しておき、税務調査が入った際にどのように損益計算を行ったかを説明できるようにしておくことが望ましいです。
期限内に正しい形で提出すれば、後から修正申告する手間や追徴税に悩まされるリスクを大幅に減らすことができます。
暗号資産の取引で生じる最大のリスクの一つに、「納税資金の確保が困難になること」が挙げられます。
暗号資産の所得計算は、売却(法定通貨への換金)や、他の暗号資産、またはモノやサービスへの交換を行った「決済時点の市場価格」に基づいて行われます。
この仕組みの結果、以下のような事態に陥るケースが多発しています。
したがって、利益が確定した時点で、利益の50%程度(税率によって変動)を目安として、その分の金額をすぐに日本円などの法定通貨に換金し、納税資金として隔離しておくなど、計画的な管理が大切です。
修正申告や税務調査によって追徴税額が発生した際、納税資金が確保できず、故意に納付を拒否・遅延すると、単なる延滞では済まないリスクもあります。
悪質な仮装・隠蔽行為と判断された上に納税ができない場合、「所得税法違反」として告発される可能性があります。
仮想通貨による税負担を少しでも軽減するためには、脱税ではなく、法律で認められた正当な方法での「節税」や計画的な取引が重要となります。
仮想通貨の所得は雑所得に含まれるため、株式のような強力な節税策(NISAや申告分離課税)は使えませんが、いくつかのポイントを押さえることで手残りの金額を増やせる可能性があります。
雑所得は、他の区分の所得(給与所得など)とは損益通算できませんが、同じ雑所得内であれば通算が可能です。
例えば、ビットコインで100万円の利益が出ていても、イーサリアムで50万円の損失(マイナス)が確定していれば、合算して「所得50万円」として申告できます。
年末までに含み損のある保有銘柄を売却して損失を確定させ、利益を圧縮するのも一つです。
また、必要経費の計上も重要です。
取引手数料だけでなく、以下のような支出が経費として認められる可能性があります。
ただし、経費として認められるのは「仮想通貨取引に直接必要である」と客観的に説明できるものに限られます。
領収書や明細はしっかり保管しておきましょう。
利益が1,000万円を超えるような一定の規模が期待できる場合は、法人化(資産管理会社の設立)を検討する価値があります。
法人税の実効税率は約30%〜34%程度であり、個人の最高税率(約55%)と比較してメリットが出る場合があります。
また、法人の場合は欠損金の繰越控除(赤字を翌年以降に持ち越せる)が可能になるなど、税務上の選択肢が広がります。
仮想通貨の税金について、特によくある疑問をいくつか取り上げ、ポイントをわかりやすく解説します。
A: 保有しているだけ(含み益の状態)では課税されません。
売却(現金化)、他の暗号資産との交換、商品・サービスの決済など、含み益が実質的に確定したタイミングで課税対象となります。
特に、仮想通貨同士の交換も課税対象となり、現金化していなくても納税義務が発生するため注意が必要です。
A: バレる可能性が非常に高いです。
国際的な情報共有(CRS)や租税条約があり、海外取引所のデータも日本の税務当局に提供される仕組みが強化されています。
「バレない」と高を括って無申告を続けるのは危険です。
A: はい、税務署から指摘を受ける前に、自ら進んで「期限後申告」を行えば、無申告加算税が5%に軽減されるなどの措置があります。
放置して税務調査が入るのを待つよりも、一日も早く税理士に問い合わせて適正に処理することを強くおすすめします。
仮想通貨の取引から得られる利益は、正しく申告すれば大きなリスクを回避しながら運用を続けることができます。
仮想通貨は今後も新しいサービスや技術進化が見込まれる分野ですが、税制やルールも年々変化しています。
そのため、国税庁の公式サイトや信頼できるメディアで最新の情報をキャッチアップしながら、確定申告の方法をアップデートしていくことが欠かせません。
申告漏れや無申告は、多額の追徴課税や重加算税の対象となり、財産を失うだけでなく、社会的信用まで失う危険を伴う行為です。
「バレたらどうしよう」という悩みを抱えたまま過ごすのは精神的にも良くありません。安心して仮想通貨を投資・運用するためには、正しい知識と適切な税務対応を常に意識し、必要に応じて税理士などの専門家と連携しながら進めるようにしましょう。
税理士法人羽賀・たちばなには、元国税専門官・元国税審判官の経験をもつ弁護士が在籍しています。
税務署の税務調査から、国税局の査察まで税務・法務の両面からトータル・ワンストップでサポートいたします。
税に絡むトラブルの法律相談、税務相談をおこなっています。
ぜひお気軽にお問い合わせください。