
このコラムの要点(目次)
「少しくらい売上を抜いてもバレないだろう」
「現金取引なら税務署も追えないはずだ」
もしあなたが今、このような考えで確定申告を行っている、あるいは無申告の状態にあるなら、それは非常に危険です。
脱税(税金逃れ)が発覚すると、本来払うべき税金に加え、無申告加算税や重加算税といった多額の追徴課税、さらには逮捕や実刑といった厳しい刑事罰が科されます。
本記事では、国税庁独自のシステム(KSK)や銀行調査権限など、脱税がバレる具体的な根拠と手口を解説します。
また、合法的な節税との境界線や、万が一不正をしてしまった場合にペナルティを最小限に抑える「自主的な修正申告」の方法も紹介します。
正しい知識でリスクを解消し、事業を守ってください。
一般的に「脱税」と呼ばれる行為も、法的にはいくつかの段階に分かれます。
税金に関する不正行為としては、『申告漏れ』『所得隠し』『脱税』などが挙げられますが、これらは悪質性や「わざとやったかどうか(意図の有無)」によって大きく区分されます。
申告漏れは比較的軽微なミスであることが多い一方、所得隠しや脱税は意図的に収入を隠す性質があります。
税務署は、申告書の内容不備が単なる計算ミス(過失)なのか、意図をもって行った隠蔽工作(仮装・隠蔽)なのかを厳密に判断します。悪質な場合は35%〜40%もの重加算税や刑事罰が科される可能性が高まります。
特に根拠のない金銭のやり取りや不自然な経費計上は、脱税を疑われる大きな要因となります。
| 用語 | 内容 | ペナルティの重さ |
|---|---|---|
| 申告漏れ | 計算ミスや知識不足により、申告額が少なかったもの。 | 軽(過少申告加算税など) |
| 所得隠し | 売上の除外や架空経費の計上など、意図的に所得を減らす行為。 | 重(重加算税の対象) |
| 脱税 | 所得隠しの中でも特に悪質で金額が大きく、刑事告発の対象となる行為。 | 最重(刑事罰・実名報道) |
申告漏れとは、申告の際に一部の収入や経費処理が抜け落ちるなど、主に不注意や知識不足による過失を指します。
一方、所得隠しは故意に売上や収入を申告しない行為であり、より悪質と見なされます。
脱税は、さらに踏み込んで二重帳簿を作成して証拠を隠蔽したり、虚偽の書類を作成するなど、積極的に税金の支払いを免れるために不正を行う行為を指します。
税務署の上位組織である国税局の査察部などは脱税行為を特に厳しく取り締まります。
査察調査を経て、検察庁への告発、逮捕や起訴に至る場合もあります。
このように、同じ「税金を払っていない」状態でも、故意性や悪質性が認められるかどうかで法的評価は大きく変わります。
節税とは、法令の範囲内で許容される控除や特例(青色申告特別控除、小規模企業共済など)を活用し、合法的に納税額を抑える行為です。
適切な会計処理や制度を利用して税負担を軽減するものであり、脱税とは異なります。
一方、租税回避は法律の抜け穴を突いたグレーゾーンの行為を指す場合があります。
形式的には違法とされない場合もありますが、税務当局が「同族会社の行為計算否認」などの規定を用いて問題視すると、否認を受けるリスクがあります。
結果的に、違法性のある脱税に至ると、重い罰則や社会的信用の失墜など取り返しのつかない損失を被ることになります。
「これくらいなら大丈夫だろう」という自己判断が一番の敵です。
「現金手渡しなら記録に残らない」「個人の口座なら見られない」というのは大きな誤解です。
税務署は国税総合管理(KSK)システムなどの独自システムを活用しています。
過去の申告内容や法定調書、周辺情報を一元管理・突合を行い、不審点を洗い出します。
特に、取引先や金融データとの不一致が明確になると、より詳細な調査の対象となりやすいです。ここでは、税務署がどのようなルートであなたの不正を察知するのか、そのメカニズムを解説します。
あなたの会社に税務調査が入らなくても、取引先に税務調査が入ることでバレるケース(反面調査)が非常に多いです。
反面調査とは、調査対象者の取引先や銀行に対して、帳簿や記録の裏付けをとる調査のことです。
例えば、取引先A社が税務調査を受けたとします。A社の帳簿には「あなたへの外注費 100万円」の記録があるのに、あなたの申告にはその売上が計上されていなければ、即座に「売上除外」が発覚します。
協力が得られない場合でも、税務署には質問検査権という法的権限があるため、事実関係を容易に把握できます。
自分だけが隠していても、取引先の帳簿から不正が筒抜けになるということです。
税務署は、職権によって金融機関の取引データを調査する権限を持っています。
銀行の入出金履歴は、少なくとも過去10年分は保存されており、税務署は必要に応じてこれらを照会できます。
「自分の個人口座ならバレない」と思って事業の売上を入金させたり、出金記録を操作したりしても、不自然な資金移動はすぐに特定されます。
例えば、申告所得が200万円しかないのに、クレジットカードで年間300万円の決済があれば、「生活費はどこから出ているのか?」と疑われるのは当然です。
不動産や高級車などの高額資産を所有しているにもかかわらず、年間所得や帳簿上の利益が著しく低いと、税務署は申告の妥当性を疑います。
特に、不動産購入や住宅ローンの審査時に提出した所得証明と、税務申告書の内容に矛盾がないかはチェックされやすいポイントです。
「赤字決算なのに、なぜ高級外車に乗り、住宅ローンを組めるのか?」
こうした不一致は、「どこからその資金が出ているのか(簿外資産があるのではないか)」という疑問を抱かせます。
現代特有の「バレる理由」として急増しているのが、SNS(X, Instagram, YouTubeなど)です。
「最高月収〇〇万円達成!」「高級ホテルで豪遊」といった投稿は、税務署の情報収集担当者(情報技術専門官など)もチェックしています。
ビジネス上のブランディング(集客目的)で話を盛っている場合でも、税務署は事実確認のために調査を行うことがあります。実際にSNSの投稿と申告内容の乖離(かいり)がきっかけで税務調査が行われ、無申告が発覚した事例は後を絶ちません。
従業員や取引先、あるいは競合他社からの密告(タレコミ)は、脱税発覚の強力なきっかけです。
国税庁はウェブサイト上に「課税・徴収漏れに関する情報提供フォーム」を設けており、匿名で通報が可能です。
内部事情を知る元従業員や、トラブルになった知人からの情報は信憑性が高く、具体的な証拠とともに提供されることもあります。
社員や関係者とのトラブルによって内部情報が漏れ、信用を大きく損なうケースは珍しくありません。
近年、国税庁のKSK(国税総合管理)システムとマイナンバー(個人番号)の紐付けが進み、個人の所得情報の把握精度が格段に向上しています。
提出された支払調書(報酬、不動産使用料など)にマイナンバーが記載されることで、名寄せが容易になり、副業や暗号資産(仮想通貨)、ネットオークションなどによる収入の申告漏れが、システム上で検知されやすくなっています。
「少額だから」「ネットだけの取引だから」という油断は、マイナンバー制度の普及によって通用しなくなっています。
代表的な不正行為にはどのようなものがあるのか、具体的な事例を交えて解説します。
脱税の典型的な手口は「売上を減らす」か「経費を増やす」かのどちらかです。
しかし、これらは必ずどこかに「矛盾」を生じさせます。
一部の売上や報酬を帳簿に記載せず、故意に申告所得を少なくして納税を逃れる手法です。
よくあるのが「中抜き」や「翌期への売上繰り延べ」です。
また、現金取引の多い飲食店や建設業では、レジ記録の改ざんや領収書の控えを破棄するといった手口が見られます。
税務署は、仕入額や人件費から推測される「あるべき売上規模」と申告額を比較します。
また、銀行口座への不明な入金や、取引先の支払調書との不一致から発覚することが考えられます。
複数年にわたって継続的に売上隠しを行った場合、最も重い処分を受ける可能性があります。
実際には存在しない取引先の領収書を用意する、または少額の経費を「5」を「8」に書き換えるなどして大きく偽って計上する不正行為です。
協力者に頼んで架空の請求書を発行してもらい、後でお金を戻してもらう(キックバック)手口もこれに含まれます。
税務署は反面調査で相手方の売上を確認するため、実体のない取引はすぐにばれます。
また、領収書の筆跡や紙質、連番などが不自然でないかも細かくチェックされます。
期末の在庫数(棚卸資産)を少なく計上し、その分を「売上原価」として計上することで利益を減らす手法です。
在庫は売れた時に初めて経費になるため、在庫として残っている分を経費にするのは違法です。
決算期末の翌日や翌月の売上と在庫の動きを見れば、不自然な在庫減少はすぐに分かります。
過去数年の粗利率(利益率)の変動からも推測されます。
法人カードなどで個人的な買い物や家族旅行費用、自宅の家電などを支払い、それを事業経費として処理する不正です。
「これくらいバレない」と思いがちですが、調査官が最も目を光らせるポイントの一つです。
スーパーマーケットや百貨店、休日のレストラン利用、子供用品店などのレシートは厳しくチェックされます。「業務との関連性」を具体的に説明できなければ否認されます。
実在しない従業員(架空人件費)や、勤務実態のない親族への給与、存在しない外注先への報酬を計上する手口です。
タイムカード、業務日報、成果物などの履歴や実態がない場合、直ちに架空と認定されます。
その人物へのインタビューが行われることもあります。
特定の業種や特徴的な会計処理形態など、税務署の目を引きやすいパターンを紹介します。
税務署は限られた人員で効率的に調査を行うため、過去のデータに基づき「不正が見つかる可能性が高い先」を選定します。
飲食店、美容室、小売店、建設業、風俗業など、日常的に現金(キャッシュ)を取り扱う業種(BtoCビジネス)は、売上をごまかしやすいため、重点的な調査対象(特別調査対象)になりやすい傾向があります。
また、消費税の納税義務が発生する「売上1,000万円」のラインをギリギリ下回っている事業者も、「意図的に売上を調整していないか?」と疑われ、チェックされやすくなります。
経理の専門知識が乏しいまま適当な会計処理を行っていると、勘定科目の数値が異常値を示し、KSKシステムのアラートに引っかかることがあります。
「一括償却資産」の誤った処理や、使途不明金が多い決算書は、税務署に「ずさんな管理=他にも叩けばホコリが出る」という印象を与えます。
一度税務署から申告漏れを指摘された事業者は、その後も数年間は継続的にモニタリングされます。
「一度是正されたのだから数年は来ないだろう」というのは誤りで、反省が見られない場合は短期間で再調査(おかわり調査)が入ることもあります。
税務署は地域の平均的な生活費データを持っており、申告所得から税金と社会保険料を引いた「手取り」で、その生活が維持できるかを計算しています。
計算が合わない場合、売上除外の疑いを持たれる可能性があります。
「ある日突然、税務署員が家にやってくる」というイメージがあるかもしれませんが、実際の手順はケースバイケースです。
任意調査は、通常の税務調査です。
事前に税務署から「〇月〇日に調査に伺いたい」と連絡があり、日程を調整した上で行われます。任意とはいえ、正当な理由なく拒否すれば罰則があるため、実質的には受忍義務があります。
一方、強制調査(査察調査)は、巨額かつ悪質な脱税が疑われる場合に行われます。
映画のように段ボール箱で資料を押収されるのはこちらです。
調査官はまず、申告書と事前の収集情報を元に、帳簿や領収書などの現物を確認します。
「この日の売上が帳簿にないようですが?」
「この外注費の成果物はどこですか?」といった質問が行われます。
この際、曖昧な回答や嘘をつくと、調査期間が長引くだけでなく、調査官の心証を著しく損ないます。

調査の結果、誤りが認められれば「修正申告」を行います。
その後調査は終了し、後日、不足分の税金と加算税の納付書が届きます。
もし指摘内容に納得がいかない場合は、修正申告を拒否し、税務署からの「更正処分」を待って、不服申し立てを行うことも可能です。
脱税が発覚すれば、本来払うべき税金だけでなく、ペナルティとしての税金(附帯税)や、最悪の場合は刑事罰が科されます。
追徴課税には、以下の種類があります。
例えば、500万円の脱税(無申告)が発覚し、重加算税40%が適用されると、本税500万円+重加算税200万円+延滞税で、合計700万円以上を支払うことになるケースもあります。
査察調査によって「悪質な脱税犯」として告発されると、「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(またはその併科)」という刑事罰が科される可能性があります。
一般的に、脱税額が1億円を超えるような事案で告発されることが多いですが、金額が少なくても手口が悪質な場合は逮捕事例があります。
脱税で告発されると、実名で報道されるリスクがあります。
インターネット上に「脱税企業」「脱税社長」としての記録が半永久的に残り、銀行からの融資停止、取引先からの契約解除、従業員の離職など、事業継続が困難になる社会的制裁を受けます。
「逃げ切れば勝ち」と考えるのは危険です。
税金の時効(除斥期間)は、悪質性によって延長されます。
通常の申告漏れであれば、時効は5年です。
しかし、偽りその他不正の行為(脱税)があったと認定されれば、時効は7年に延長されます。
「時効まであと少し」というタイミングで税務調査が入ることも珍しくありません。
また、刑事訴訟法上の公訴時効と、税法の除斥期間は別物です。
海外への資産隠しや複雑なスキームを用いた脱税は、国税庁も重点的に調査を行っており、見つかった時のダメージは計り知れません。
「逃げ得」は許されない仕組みになっています。
「過去に無申告の期間がある」
「経費を水増ししてしまった」
もし心当たりがあるなら、税務署から指摘される前に、自分から動くことが唯一の救済策です。
税務調査の連絡が来る前に、自主的に修正申告(または期限後申告)を行えば、ペナルティが大幅に軽減されます。
調査通知前の自主申告:5%
調査通知後の申告:10%〜15%
調査後の指摘による申告:15%〜20%(高額な場合は30%)
このように、自主的に申告すれば加算税は5%で済みます。また、重加算税(40%)のリスクも回避できます。
「いつバレるか」とビクビクして過ごすよりも、一日も早く申告書を提出することが、精神衛生上も経済的にも合理的です。
「何から手を付ければいいかわからない」
「いきなり税務署に行くのは怖い」という方は、まず税理士に相談してください。
税理士などの専門家は、守秘義務があるため、相談内容を勝手に税務署に通報することはありません。
専門家のサポートを受けることで、手続きをスムーズに進め、追徴税額を適正な範囲に抑えることが可能です。
事務所によっては、無申告案件の対応実績が豊富なところもありますので、気軽に相談してみましょう。
最後に、正しい節税について再確認しましょう。
会社設立(法人化)や控除の活用など、認められた手段で賢く税金を減らすことは、経営者の権利です。
これらは全て法律で認められた「節税」です。これらを活用せず、売上を隠すという違法な「脱税」に走るのは、あまりにリスクリターンが見合いません。
「知人の社長に教わった」「ネットに書いてあった」という曖昧な知識で、実体のないコンサルティング料を払ったり、海外法人を使った複雑なスキームに手を出すのは危険です。
それが否認された場合、多額のペナルティを払うのはあなた自身です。
迷ったときは、必ず専門家の意見を仰いでください。
A. 「うっかり」か「わざと」かの違いです。
計算ミスなどは「申告漏れ」、売上除外や書類改ざんなど意図的なものは「所得隠し」と判断され、後者は重いペナルティ(重加算税)の対象となります。
A. SNSの情報だけで即座に調査が入るわけではありませんが、調査対象を選定する際の重要な「端緒(きっかけ)」にはなります。
SNSでの羽振りの良さと、申告データの矛盾が見つかれば、調査が行われる確率は高まります。
A. はい、減額されることがあります。
税務調査の事前通知が来る前に自主的に申告すれば、無申告加算税は5%に軽減されます。そのため、不安を感じているなら今すぐ行動することが最善の策です。
脱税は、「バレないだろう」という軽い気持ちから始まりますが、国税庁のKSKシステム、銀行調査、マイナンバー、そして第三者の通報など、発覚するルートは四方八方に張り巡らされています。
もし現在、申告内容に不安がある、あるいは無申告の状態にあるのなら、一日も早く税理士に相談し、自主的な修正申告を行うことを強くおすすめします。
それが、あなたとあなたの事業を守るための唯一の方法です。
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